本研究で,可変角速度位相振動子系を用いた交通信号機のオフセット制御の性能を評価するため,車両が各交差点で確率的に直進または右左折すると仮定した格子状道路網を対象として,車両の平均速度を評価基準とした計算機実験を行なった.
また,オフセット制御が施されている
環境において,信号周期が交通流に与える影響を調査する実験をあわせて行った.
本研究で得られた成果は次の2 点に要約される.
研究の成果
(1) 全交差点間の距離が一定である種々の規模の格子状道路網を対象とし,各車両が交差点で確率的に直進または右左折するという仮定のもとで,提案手法である可変角速度位相振動子系を含めた六つの手法でオフセット制御を行なう計算機実験を行ない,右左折車両に対応した補正を施した提案手法で制御した場合に最も大きな車両平均速度が得られることを確認した.
(2) 可変角速度位相振動子系によるオフセット制御を施した道路網に対して,信号周期の変化が交通流に与える変化を調べる計算機実験を行ない,信号周期が短くなると右左折車両に対するオフセットの補正の効果が低減することを確認した.
これは,信号周期が短くなるにつれて交差点での待ち時間が減少し,オフセット制御自体の効果が不明確になるためと考えられるが,極端に短い信号周期は現実的でなく,実用的に意味のある信号周期の値では,オフセットの補正
は効果を有し,提案手法による制御の有効性が保たれることを明らかにした.
今後の課題
本研究で行なった計算機実験により,右左折車両を含む道路網においても,実用的に意味のある信号周期の値では,可変角速度位相振動子系によるオフセット制御が他の制御手法に比べて優れていることを確認した.
しかし,対象とした道路網は交差点間隔および交通流量が一様という設定であり,より現実的な条件での性能評価およびそれに基づく改良が必要と考えられる.
具体的には,次の2 点が今後の重要な課題であると考える.
(1) 交差点間隔が一定でなく,交通流量も各道路で異なるような,より現実的な設定における提案手法の性能評価を行なう.特に,右左折車両に対応するオフセットの補正は,交通流量が一定という条件では効果が十分には発揮されないことが見出されており,流量を変えた条件での実験は重要である.
(2) オフセット制御を施した環境において信号周期が交通流に及ぼす影響について,本研究で対象とした可変角速度位相振動子系を用いた手法以外に,他の手法で制御した場合も含めた総合的な検討が必要である.